Wakamats イベント「市民が考える脳死・臓器移植」の成果・資料公開



「脳死・臓器移植」を考えた市民パネルの活動記録 −専門家との対話から市民の提案へ−

市民が考える脳死・臓器移植「鍵となる質問」への回答 守田憲二 2005.2.26

参考文献持参、後日でもメールmoriken@art.plala.or.jpによる問合せ応諾、www6.plala.or.jp/brainx/も参照願う

考え方・枠組み

脳死・3徴候死・臓器移植にかかわる情報を整理することが先決。臓器提供施設でさえ泌尿器科以外の医師は「心停止後の臓器提供は死体損壊」というほど現実を知らない。腎血流途絶時間を示す温阻血時間は「心停止後遺体を手術室に搬入、消毒、開腹、摘出する」と60分近くなる。しかし1981〜1987年に温阻血時間60分以上は680例中67例。これは心停止前から腎臓冷却液注入用と脱血用のカテーテル挿入、抗血栓剤投与が行われ3徴候死後の臓器摘出ではないことを示す。カテーテル挿入は、大部分が腎臓への冷却液注入と同時に静脈を切断・脱血する手技と一体の致死行為。2〜5万単位の抗血栓剤投与は内出血を誘発しかねない、カテーテルを挿入した下肢が変色する(西日本泌尿器科65巻5号p248−p253)。

「カテーテル挿入はドナーの生前同意が必要」とした関西医大事件判決(1997年)に、厚生省・移植学会は「カテーテル挿入は患者への侵襲性が極めて軽微、腎臓移植を適正に実施する上で必要と認められる処置(内閣総理大臣 橋本龍太郎 参議院議員竹村泰子君提出脳死判定基準等に関する質問に対する答弁書1997年6月17日)」と情報操作している。

弘前大第1外科は1968年7月23日、14歳男児を全身冷却し31℃で心停止、直腸温25℃で両側腎摘出(移植4巻3号)。人工心肺による酸素化血液循環下、心臓拍動を補助する大動脈内バルーンパンピング施行下、人工呼吸器装着下など心停止の実体なき状態で、「心停止後」と称する臓器摘出が大部分。膵島移植は膵臓全体を摘出するのに「組織摘出」という。

臓器移植を推奨する科学的根拠が少ないことも認識されるべき。ガン治療では「患者の生死不明10%以上の施設は、治療成績の公表は控えるべき」指針があるが腎移植の生死不明率は24%。透析患者と腎移植患者の年齢・透析歴・原疾患を一致させ生存率、QOLを検討したデータもない。腎不全医療に携わるコ・メディカルも自分が腎不全になる場合に40%しか腎移植を選ばない、移植施設コ・メディカルで移植を選択する人は一層少ない。腎移植に最も近い者が腎移植を拒否する。移植未登録透析患者の6割は移植の意志ないor高年齢であり「透析患者増加=移植推進すべき」のPRはミスリード。

国立循環器病センターで78例の心臓移植待機登録、うち登録取り消し・心機能改善が8例。大阪大・埼玉医科大で補助人工心臓と内科・外科治療で4割が補助人工心臓から離脱。大阪大で肝臓移植適応とされた患者6症例に対し、内科的治療法で2例を救命した。内科的治療の限界と判断する指標が未確立(日本救急医学会雑誌、15巻19号p491、2004年)。

もちろん移植に頼らない代替医療も、比較的軽症の患者に効果がある治療法が多く、代替心臓外科手術も術中死亡率が高く、長期生存率が移植に比べると低い。「移植がもっとも生存率、QOL,が高く、術中死亡率が低い」という患者もおられる。しかし私は臓器移植は、他人の命を短縮し尊厳を傷つけモノ化し自分が長生きすることと判断するから臓器移植を受けない。千里救急救命センターの太田宗夫氏は、脳幹反射消失の時点で脳死発生とし脳不全を悪化させる移植目的の臓器保存処置を推奨。高知赤十字病院は法的脳死の30数時間前に抗利尿ホルモン投与で収縮期血圧210mmHgに上昇させた。杏林大病院の田中秀治氏は法的脳死判定7例目で法的脳死以前からドナー管理したが、これも医学的検証作業グループ6名うち2名が杏林大医師という身内の検証で「問題なし」。臓器提供意思表示カードは、自殺を確実にしたい時だけ持つべき

脳死は本当に人の死ですか。死の範囲はどこまでですか?

死後の体動は脳死後だけでなく心臓死後もあり、死後硬直ある死体で心臓のみ自動運動を認めた司法解剖例もある(犯罪学雑誌14巻2号p306−p307、1940年)。脳死出産は近年のことで心臓死出産は古代からあり、心停止で帝王切開したら母体も救命されたり、心停止後出生もある。動くこと、新たな生命を産むことは生命の基本的な性質であるから、動き出産し得る状態を「死」という認識が間違い。「決め事としての便宜的な死が、社会的に死とされ運用されているが、それは本当の生物としての死とは異なる。誤った心臓死・脳死の宣告は除いて、『決め事、便宜的な社会的な死』と『本当の生物学的な死』の間に起こることが、脳死者・心臓死者の出産や心臓死後出生、体動、心臓拍動である」と考えたほうが適切ではないか。

死の定義案:死とは生命現象が終止することである。それは、生命体が恒常性を維持することができなくなった時に始まり、その生命体を構成している全細胞の物質交代・エネルギー交代が行われなくなった時、または全細胞の構造が破壊された時をもって完結する。

「決め事としての死亡宣告は、生物学的な死より早期に行われる」と認識したうえで、その「死亡宣告」の後に行ってよい事、行ってはいけない事を判断すべき。脳死判定を覆すまで蘇った例が多数あり、便宜的にも「脳死は人の死」とはできない。

脳死から復活した“ラザロ患者”(2回の脳死判定間隔を6〜24時間ではなく、虐待排除目的からも数ヶ月間にすべき)

脳死判定あるいは臨床的脳死診断後に(1)心臓死まで7日間以上経過(生存)(2)脳死判定基準の必須検査項目に反応アリ(3)脳死判定の補助検査に反応アリ(4)脳血流(補助)検査以外の方法で脳血流を認めた、以上のいずれかに該当した症例を「脳死判定後の脳死否定例」とした。過去約20年間の国内論文から小児だけで170例(2004年末現在)。

以下は、脳波や痛み刺激への反応や自発呼吸の復活、脳血流再開、ホルモンの分泌、身長が伸びる、などの小児症例。

臨床的脳死例

  1. 公立高畠病院:1993年10月20日 発症、テンカン発作で心停止の11歳男児は、厚生省脳死判定基準(1985年)により脳死状態と考えられた後に、1994年5月19日聴性脳幹反応で頭蓋内血流があることを示すI波の再出現をみた。8月22日 失調性呼吸が認められ数日持続。30分間無呼吸テストで規則的な自発呼吸が出現、9月22日 再び失調性呼吸となり消失。現在 血圧150〜180/90〜110mmHgと高く、呼吸管理を必要とするが、循環状態は比較的安定し、経管栄養も順調に行なわれている(日本小児科学会雑誌99巻9号p1672−1680、1995年)
  2. 藤田学園保健衛生大:4歳男児は、脳波、聴性脳幹反応は完全に消失するも、1ヶ月後に一時的ながら自発呼吸を認めた。178日間生存(救急医学12巻9号、S477−S478、1988年)
  3. 大阪大学:乳幼児突然死症候群の3ヵ月女児は、第3病日以降、脳死状態。第19〜22病日の頭部CT、脳血管造影では、脳の自己融解がみられず、脳循環はほぼ正常第27〜33病日には、視床下部、下垂体機能の残存が確認。第43病日、自発呼吸が発現した。脳死後69日間生存(日本救急医学会雑誌2巻4号p744−p745、1991年)
  4. 奈良県立医科大学:生後4日目に脳室内出血の男児は、人工呼吸管理、運動反応なし、深昏睡状態。2ヵ月半後のSPECT検査で大脳血流なく、3ヵ月後も同様の所見。臨床的脳死と判定したが、脳波検査で発症後1.5か月、2か月後にも10μV前後の脳波活動を認めた。1歳8ヶ月時の脳波検査で8〜12Hz、10〜15μVの脳活動残存。明らかなα波、β波とθ波を伴う低振幅脳活動あり。2歳3ヶ月まで生存(小児の脳神経26巻4号p303、2001年)

脳死判定例

  1. 大阪府立病院:交通事故の5歳11ヶ月男児は第8病日に脳死。抗利尿ホルモンは第13病日まで分泌。第14病日に経頭蓋骨的ドプラー法で脳血流停止、第25病日に造影CTで脳血流確認。(日本救急医学会雑誌4巻p655、1993年)
  2. 兵庫医科大学:急性硬膜下血腫とびまん性脳浮腫の11ヶ月男児は身長74cm、体重8.7kg。第15病日に成人用脳死判定で無呼吸テストも行い脳死状態。第219病日に「小児における脳死判定基準に関する研究班」の基準案を満たしていることを確認。第245病日に抗利尿ホルモンは中止したが心停止せず第253病日に身長82cmまで増加。脳死後312日間生存、経過中に脳の一部融解漏出あり(日本救急医学会雑誌11巻7号、p338−p344、2000年)。
  3. 広島大学:痙攣後心停止の3ヶ月男児は、第5、6病日に脳死と診断。第9病日にSPECTにて若干の脳血流の存在を、経頭蓋骨的ドプラー法でほぼ正常な波形を認め、さらに第12病日には潜時の延長を認めるものの、第V波まで確認できる聴性脳幹反応が得られた。脳死後22日間生存(日本救急医学会雑誌8巻6号p231−236、1997年)
  4. 奈良県立奈良病院:重症新生児仮死の女児は、日齢7に脳死と判定されたが、脳死判定後13日後に脳波と痛み刺激に反応17日後に脳幹部血流再開した。脳死後43日間生存(日本新生児学会雑誌35巻2号p290、1999年)

脳死と植物状態の違うことを知らない人が60%(1979年筑波大・深尾立、土浦市・関城町)。63%(2000年大本本部、ドナーカード所持者)、脳死と遷延性意識障害の区別がわからない人が常に過半数の現実に、脳不全患者の現実が接近してきた!

なぜ脳死判定基準が必要になったのですか?

ベッドコントロール(医療資源の制約)と臓器移植のため

現場の医療従事者の間では、脳死・臓器移植についてどのような議論がなされているのですか?

参照:http://www6.plala.or.jp/brainx/last_lie/ 臓器提供施設単位でドナーカード保有率(提供・拒否を問わず)は0.3〜53%。

臓器移植制度の運用の中立性・公平性について、臓器移植コーディネーターは中立なのですか?

日本臓器移植ネットワークの臓器移植コーディネーター以外に、都道府県委嘱および無資格院内移植コーディネーターがおり、入院時からドナーカードの有無・病状の把握、ドナーカード登録制の静岡で重症患者の登録の有無を検索している。豊見城中央病院の院内移植コーディネーターは、家族に腎臓提供の話をする前に、抵抗の少ない角膜提供の話をする。

外国との制度上の差異が、今後なにをもたらすと考えますか?

米国で臓器提供を拒否した患者が生還、一人で通勤している。日本の経験をもとに外国の脳死・臓器提供も改めるべき。