Wakamats イベント「市民が考える脳死・臓器移植」の成果・資料公開



科学技術への市民参加型手法の開発と社会実験 −イベント「市民が考える脳死・臓器移植」を中心に−

はじめに 本プロジェクトの概要

若松征男

1. イベント「市民が考える脳死・臓器移植」を開催したプロジェクト

2005年1月から3月にかけて市民参加研究会が開催したイベント「市民が考える脳死・臓器移植」は、次のようなプロジェクトの中心的部分として行われたものです。なお、「市民参加研究会」は、このプロジェクトを行う研究者集団が、イベント開催の際に、分かりやすい名前として名乗ったものです。

笹川平和財団助成「科学技術への市民参加型手法の開発研究プロジェクト」
研究期間:2003年4月〜2005年3月(後に05年4月までの期間延長を認めていただいた)
研究タイトル:科学技術への市民参加手法の開発研究(先端医療技術を題材として)

以下、プロジェクト提案書から、研究の目的を転載します。

研究目的
(1)研究の背景

人間の生命に関わる技術の進展が著しい。脳死・臓器移植については、1969年に日本で初めて行われた心臓移植についての疑義などによって、脳死による臓器移植が1997年に法的に認められるようになるまで、大きな社会的議論を長い間、続けた。確かにこれら生命操作に関わる技術は専門家(専門学会など)と受益者、そして課題とする技術に疑義・反対などを持つ人々の間で議論されていることはマスメディアでも見ることができる。しかしながら、社会全体としては、必ずしも十分な社会的議論を行ってきているとはいえない。これら生命操作に関わる技術だけでなく、社会に影響を及ぼしうる多様な科学技術を社会としてどのように用いるか、あるいは受け入れるべきかについて、社会的議論を経たコンセンサスが重要である。

このような状況にあるにも拘わらず、科学技術を社会として議論し、どのようにコンセンサスを生み出していくべきか、そのシステムも方法もまだ明らかになっていない。

これに対応して、科学技術への市民参加を促進・推進すべきであるという考え方は、次第に強くなっており、科学技術基本法、科学技術基本計画(特に2001年閣議決定、第2次計画)などで謳われている。さらに、第3次科学技術基本計画策定に向かって、この参加のシステムを作り上げたいという動きが明らかになっている。諸外国においても、こうした動きは出てきており、例えば、イギリスでは、この参加のためのシステムを検討している。このように、数年前では、参加はまだ「試み」の段階にあったが、現時点では、単に参加の必要性を言うだけではなく、どのようにすべきかの議論に進んでいる。

研究代表者は、これまで、こうしたシステム・方法の必要性を主張し、実際に、コンセンサス会議の社会実験などを行うなどの努力を続けてきた。本研究プロジェクト提案は、これまでの経験と実績を踏まえ、手法開発を通したシステム提案を目指すものである。

(2)研究の目的

このプロジェクトは、これまでの経験と実績に立ち、さらに一歩前進するために、科学技術に関する社会的議論とコンセンサスを生む手法を開発することを目的として立ち上げるものである。

具体的には以下の3項目を柱とした研究を進め、日本において実施可能な手法を開発する。

|1| 参加手法の事例研究
新たな参加手法を開発するために、これまで行われてきた手法を国内・海外の調査によって整理し、手法の特徴と、手法と適用する課題との関係、さらには、手法を適用する際の環境条件を明らかにする。
|2| 手法を適用する事例についての研究
参加型手法を用いて議論すべき、あるいは議論できる課題を探索する。課題の探索にはフォーカス・グループ・インタビュー手法(後述)を用いる。
|3| 新たな手法の開発
科学技術への市民の参加手法については、コンセンサス会議を始めとして、既にいくつかの手法が試みられている。この研究では、これまでの研究、試行を背景とし、上の|1|、|2|の研究を積み重ねることによって、市民参加型の社会的議論とコンセンサスを生むための手法を開発し、試行することを目的とする。

2. 新手法設計に向けて

2003年度から2004年度前半にかけて、私たちは新手法設計のための研究を行いました。これには、(1)海外事例調査も含め、参加型手法の研究、(2)新手法を適用するテーマについての研究、(3)新手法開発の基礎研究、の三つの領域があります。これらについては、それぞれ、第1章、第2章、第3章でその成果の主要な部分を述べてあります。

2004年6月、欧米から参加型手法のプラクティショナー(デンマークのDBT事務局長ラース・クリューヴァー、スイスのサイエンス・カウンシルTA部門事務局長セルジオ・ベルーチ、アメリカの参加型手法プラクティショナー、ジェイムズ・クレイトン)の参加を得て、研究会を開き、それまでの研究成果を示しながら、新手法設計のための助言を得ました。

これをもとに私たちは議論を重ね、2004年11月には、およそ新手法の方向性を打ち出しました。この経緯は、第3章に触れています。

3. イベント実施に向けて

プロジェクト助成は、2005年3月に終わることになっていましたので、新手法試行(イベント)は、これより前にしなければなりません。しかしながら、イベント実施には多くの参加者を得る必要があり、ことに専門家(情報提供者)の参加は不可欠です。結局、専門家のリクルートの状況から、イベント日程の設定が1月から3月になり、助成期間の1ヶ月延長をお願いすることとなりました。

公募で集まっていただいた市民パネル、私たちの個人的ネットワークで参加をお願いした説明者・参加者など、多くの参加者を得ることができ、1月から3月にかけて、無事、プログラムを実施することができました。これには、市民パネル公募を中心として、報道していただいたメディアの力も大きかったと思われます。

第4章と第5章では、イベントの準備から実施に至る過程を報告します。

4. 公開シンポジウム

3月5日、イベント終了直後に、市民パネルがまとめた「市民の提案」を記者発表しましたが、当初から、このイベントの成果を広く社会に報告する集会を開くことを予定していました。そして、ようやく、イベントの途中で、成果報告のための公開シンポジウムを4月23日に開催することを決め、参加者の皆さんにお伝えしてきました。

シンポジウム開催趣旨にありますように、この集会は二つのテーマを扱います。一つは、もちろん、市民パネルのまとめた脳死・臓器移植についての「提案」です。いま一つは、市民参加の手法として用いた今回の新手法です。

シンポジウムとして開かれる集会では、多く、プログラムに予定された発表者による講演などで終わり、質疑の時間はごくわずかです。しかし、参加型手法を研究する私たちとしては、敢えて、この集会に集まっていただく方々に、二つのテーマについて議論していただこうと考えました。午後1時から5時まで、実質的に使える時間は3時間半強しかありません。しかし、報告を出来る限り短くして、イベント参加者の発言を得、さらに、会場の参加者とともに、議論していただくよう計画しています。

このためもあって、皆さんにお配りする2種類の報告書では、1)イベントが始まって終わるまでに使われ、あるいは作られた文書をまとめ、これに加えて、2)このプロジェクト、このイベントで私たちが何を、どのようにやったかについての記録を出来る限り詳しく紹介します。

5. 公開シンポジウム以後

このシンポジウムを終え、私たちのプロジェクトは、4月末までに笹川平和財団に終了報告書を提出し、解散します。終了報告書では、この公開シンポジウムまでに得られた成果を報告しますが、この内容は、研究代表者である若松のホームページで、公開する予定です。

本報告書では、プロジェクトとしてのまとめ(各メンバーの感想は別として)は入れられませんが、上の公開をお待ちいただければ幸いです。