Wakamats イベント「市民が考える脳死・臓器移植」の成果・資料公開



「脳死・臓器移植」を考えた市民パネルの活動記録 −専門家との対話から市民の提案へ−

第2回腎移植臨床検討会(虎の門共済会館・1969年7月17日)

以下は日本移植学会雑誌「移植」第4巻3号p193〜p236より

司会(園田)今日は2人の話題提供者が登録されておりますが,まず最初に弘前大学第1外科の山本先生にお願いします.

話題提供

山本 実氏

昨年7月23日1人の屍体の左右腎を2人のレシピエントにほとんど同時刻に移植しましたが,いずれも移植後2週間以内に死亡し,長期生存例をみておりませんので,病理解剖所見並びに移植腎の組織学的所見を中心に早期合併症によって死亡した2症例について検討を加えたいと思います.ドナーとレシピエントの血液型は適合で,組織適合性試験は行なっておりません.

症例1:40歳,男性,2年前より全身倦怠感,疼痛を訴え,慢性腎炎の診断で治療を受けていましたが,高血圧,尿蛋白が持続し,次第に血液尿素窒素も高くなり,昭和42年11月14日血液透析を希望して入院しました.入院後人工腎臓による血液透析を行ない,全身状態を改善し,9ヵ月後腎移植を行ないました.ドナーは14歳の男子で,第3脳室底部から橋にかけて血管腫を有し,昏睡状態をきたしていました.昏睡に入り5日後に自発呼吸が停止し,3日間レスピレーターにて呼吸が管理されましたが,一般状態は次第に悪化の一途をたどり,4日めにいたり血圧は昇圧剤にも反応せず,まったく救命不能と考えられました.

そこで家族に話したところ,家族は死後腎臓を提供することを快諾しましたので,補助循環を目的とし,股動静脈より脱血,送血カニューレを挿入し1%プロカイン100mlヘパリン3mg/kg,20%マニトール200ml,10%低分子デキストラン溶液の灌流液で充填した人工心肺装置を用いて,流量30ml/kg/minで補助循環を行ないましたが,循環を中止すると血圧は30mmHgと低下するため,移植片の保護を目的に体外循環による全身冷却を40分間行ないました.

体温31℃で心停止をきたしたので,以後急速に冷却を続け,直腸温25℃,食道温25.6℃で両側腎摘出を行ないました.摘出腎は低分子デキストラン溶液で10分間濯流し,レシピエントの左腸骨窩に右腎臓を移植しました.

次は千葉大学・尾越氏が腎臓摘出の具体的方法を問われて

尾越(千大2外)

どういうふうにやっているかといいますと,まず心臓が止まると心臓マッサージを閉胸でやるわけですが,それをずっと続けます.それと同時にビニールチューブを大腿部から通して,だいたい30cmくらいですか,腎動脈のあたりと思われるところまで入れて,もちろんそこからすぐに,ほとんど乳酸加リンゲルですが,それをまえもって冷却しておき,どんどんいれて冷やすわけです.その間年の甲をへた人がドナーの家族に腎臓をもらう交渉をするのですが,その間若い人は心臓マッサージを行い,それをカテーテルやって冷やしておく.

そして承諾がえられたら心臓マッサージ,それからもちろん挿管して麻酔器をつけてあるわけですが,それをずっと続け,手術場に運んでいきます.そのときはレシピエントのほうは麻酔をかけて用意しております.いい忘れましたが,その前にヘパリンを心臓にpunctionしてだいたい10mlくらいやっております.それからすぐにドナーの腎摘を始めます,その場合,上腹正中切開で開き,それからすぐに腹のほうから横隔膜を開いて,心臓に入るところで大静脈を切ります.といいますのは,どんどん濯流しますと鬱血が起こってくるので大静脈を切るわけです.

岩崎(千大2外)

さっきちょっと教室の尾越から,死体腎の移植の管理のことについて,私ちょっと間違ったんじゃないかなと思ったことがあったのですが,腎臓の灌流を始めるのは,大静脈を切ってから灌流を始めております.というのは,その前に始めますと,腎臓はパンパンになってしまうからです.冷やすまでに2時間たちますと,私どもはあきらめております.

秋山(東大2外)

私どもで経験いたしましたのは,今ちょっと問題になりましたけれども,なんとか腎臓の機能があるうちに移植したいということを念願しておりまして,といいますのは,やはり腎移植そのものが植えられる側にとって非常に大きい事件であるということ,やはり私どもは植えられる方の生命を大事に考えたいと,そういう立場をとりましたので,死体といいましても,非常に生きているに近い状態ということでやっております.したがって,阻血時間も短く,術後もすぐ尿が出てくるという状態でやっております.

私どものほうは,たくさんの症例を持っておりませんので,あまり詳しくのべられないんですが,いろいろモラルの問題ですかとか,今後,非常に社会的な問題が大きいと思いますが,私個人に関しましては,ドナーの方の生命ということも大事でございますけども,植えられるほうの方の生命を大事にして考えるというか,そういうふうに,考えを切り変えていかないと,いい成績はあげられないんじゃないかと考えております.

岩崎(千大2外)

将来臓器移植というのをわれわれが本当にやっていく上には,いま東大の方からご発言がありましたように,やはりドナーの問題だろうと思います.腎臓の場合はなんとか2時間以内でやっておりまして,長期生存例を得ております.けれども,それもたいへんな仕事ですし,もし早めに腎臓摘出ということが可能ならば,弘前の先生方がおやりになったように,1体の腎臓から2人の患者に移植するということも非常に簡単になってくると思います.

それであと心臓とか,肝臓とか,いろんな臓器の移植にもかかわりのあることなんですが,やはりはっきりとした基準を設けて,脳死の状態で臓器を移植するというふうな方向にもっていくということを,なんらかの形で推進していかないと,日本の臓器移植は進まないというふうに考えております.脳死の状態を果たしてどの点で定義していいかというのは,これは専門家の意見を承って作るべきだろうと恩いますが,私どもみておりましても,もはやどうしょうもないという時点は死亡数時間前にあるわけですから,そういう時点をつかまえて,やはり踏み切るということが今後必要だろうと思います.