現在、科学技術の発達・進歩は、一般の人々の生活に多大な影響を与えています。科学技術は、われわれの生活に利便性や快適さを与える一方、科学技術の開発や使用の是非、利用方法をめぐる社会的な調整が各種メディアでも論議されることが多くなってきています。例えば、原発、廃棄物処理場の建設、遺伝子治療・診断、遺伝子組み換え作物、脳死・臓器移植など、ごく身近なところから問題が提起されています。
これまでは科学技術を進めることについては科学者・技術者といった専門家と政府・産業界を中心に決定・運営されてきました。しかし、そのような方式に疑問がなげかけられ、科学技術の発達や方向づけについて一般市民の承認を得るべきだという声も強まっています。その一方で、科学技術の専門知識を欠く市民に責任ある対応ができるかどうか懸念する声もあります。
このように、生活に直接、間接に影響を与える科学技術について、普通の生活者(市民)がどのように関われるのか、また関わればいいのかという問題が提起されているのです。
ところが、一般市民が上に挙げたような科学技術について、問題を考え、自らの意思決定をするための場は社会的にほとんど用意されてはいません。科学技術への市民参加のために、どのような場や方法を組織すればいいのかという問題は、私たちの社会にとって今日の大きな課題の一つです。
それでは、市民が科学技術に参加するためには、どのような場や方法を組織すればよいのでしょうか?この問いに対して、「科学技術への市民参加」研究会は、この市民参加の「一つの」方式としてコンセンサス会議を2回にわたって試みました。
コンセンサス会議とは、一般市民十数名(市民パネル)が、問題とする科学技術についてさまざまな専門家の説明などを聞いた上で、討論を行なって合意(コンセンサス)を得るよう努力し、日常生活、一般市民という文脈から意見や提案をまとめる会議方式です。これは、1980年代後半にデンマークで「市民によるテクノロジー・アセスメント」の一環として生み出され、90年代半ばから世界各国で試みられているものです。
日本におけるコンセンサス会議の試みとして、第1回の「遺伝子治療を考える市民の会議」は98年
1月から3月にかけて関西で、第2回「高度情報社会――特にインターネットを考える市民の会議」は99年5月から9月にかけて東京電機大学鳩山キャンパスで開催されました。これら二つの「市民の会議」は、研究であると同時に、社会への提案、「科学技術への市民参加」方式の提案でもありました。そして、この
2回の経験を通じて、日本においてもこの方式は十分使えることが見えてきたと考えます。
この経験を踏まえ、私たちは、社会に向けて、コンセンサス会議方式を採用するよう働きかけるための
NPO、「科学技術への市民参加を考える会」をここに設立しました。この会は、コンセンサス会議を――さらにはその他の参加方式をも――社会に提案し、支援していくための、継続して行動する組織です。もとより、試行錯誤と検討とは今後も続けなければなりませんし、経験は次の実践にフィードバックしなければなりません。その意味では、研究は今後とも不可欠でしょう。しかし、単なる研究のための一時的組織であることを、私たちは意図しません。コンセンサス会議、そして科学技術への市民参加の制度化を推進するには責任ある組織が必要なのです。
「科学技術への市民参加を考える会」は、広く市民の参加を求めます。
1999年11月23日
「科学技術への市民参加を考える会」設立総会
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